2019年4月ごろ、人類が初めてブラックホールの撮影に成功したというニュースが話題になりました。
正確には、ブラックホール自体は光を放たないので写真には写りません。撮影されたのはブラックホールの周りの物質が重力により壊れてプラズマ化した光です。
ブラックホールが存在することは別の観測結果から以前から確認されていたし、写真に写したからといってそんなに騒ぐことか、と私は少し冷めて見ていました。
そんなことよりもブラックホールの仕組みや、そもそもブラックホールとは一体何なのかということを取り上げて報道して欲しいと、もどかしく感じていました。
そこで今回は、そんな不思議な天体であるブラックホールの仕組みについて解説していきます。
1. 脱出速度
まず結論を言うと、ブラックホールとは光さえも脱出できないほど重力の強い天体です。
では、"光さえも脱出できない"とは一体どういうことでしょうか。
地表から水平方向にボールを発射するとします。ボールは常に星の重力によって中心方向への力(向心力)を受けます。
そしてこの向心力によってボールは円運動をするので、遠心力が働きます。
ボールを発射する速度が速いほど遠心力は大きくなるので、向心力と遠心力が釣り合うような速度でボールを発射すると、
ボールは永遠に星の周りを回り続けます。これが人工衛星であり、この時の発射速度を第一宇宙速度と言います。
(図のオレンジの球)
さらにボールの発射速度を速くしていくと、星の重力を振り切って無限の彼方に飛んでいく速度があります。これを第二宇宙速度(脱出速度)
と言います。(図の青い球)
星の重力が大きくなればなるほど、当然この脱出速度も大きくなります。そしてこの世界には光より速いものは存在しません。
つまり、ブラックホールとは脱出速度が光速を超えるほど強い重力を持つ星ということです。
さて、それではどのようにしてそんなに重力の強い星ができるのでしょうか。
2. 事象の地平線 〜 ブラックホールの正体 〜
重力の強さは、その質量がどれだけ小さな範囲に凝縮しているかと言い換えられます。
そして、これ以上小さくするとブラックホールになるという半径があり、これをシュワルツシルト半径と言い、その球面を事象の地平面(事象の地平線、イベントホライズン)と呼びます。
この半径は質量を光速の2乗で割るので非常に小さな値になります。例えば、地球であればビー玉くらいの大きさに凝縮すればブラックホールになります。
しかし星をそんなに小さく圧縮することなどできるとは思えないですよね。
では、実際のブラックホールは一体どのようにしてできるのでしょうか。
実は、ブラックホールはもともと恒星なのです。
恒星は核融合をしてエネルギーを発する天体ですが、いつかは核融合する原子を使い果たし核融合を終えます。
すると内側から反発する力を失い、自らの重力に耐えられなくなり重力崩壊を起こします。
重力崩壊によって中心に物質が一気に流れ込み衝突し、エネルギーが外側に広がります。これが超新星爆発です。
こうして恒星が圧縮された結果、ブラックホールや中性子星になるのです。
※ ブラックホールになるほど質量の大きくない恒星が超新星を起こした場合、中性子星という非常に重力の強い天体になります。 ちなみに、超新星を初めて観測した当初は、星が誕生している瞬間ではないかと考えられたため、「超新星」と名付けられたようです。
3. 重力と空間 〜 相対論 〜
ここまででブラックホールが何なのか、ということはわかっていただけたかと思います。
しかしブラックホールと切っても切れない関係の話がアルベルト・アインシュタインが提唱した相対性理論です。
相対性理論についてはここでは詳述しませんが、少しだけ触れておきたいと思います。
まず、相対論には特殊相対性理論と一般相対性理論の2種類あります。
特殊相対論は、重力のない世界で一定の速度で動く慣性系という「特殊」な世界についてのみ考えた理論で、
一般相対論は、重力や加速度運動も考慮した、より「一般的」な世界に拡張した理論です。
重力は非常に不思議な力なのですが、一般相対論はその全貌を明らかにしました。
それは、重力は質量によって空間が歪められた結果生じる力であるというものです。
ブラックホールのように非常に質量の大きな星の場合、上図のようにそのまわりの空間も大きく歪みます。 こうしてできた窪みに落ちていくように引き寄せられる力が重力ということです。 そして、この空間の歪みが大きいほど時間の流れが遅くなるのです。 時間の流れは絶対的ではなく、観測者の環境によって変わるということを説明したのが「相対論」なのです。
まとめ
ブラックホールは宇宙に興味を持ってもらうための非常に良いテーマなのですが、詳しく説明すると非常に難解で誰も理解できないものになってしまいます。
空間、時間、重力、光・・・宇宙には知的好奇心をくすぐるテーマがたくさんあり、まだまだ解明されていないことがたくさんあります。
私は物理学、特に素粒子の分野が最も難解な学問であると感じています。
難解が故に、色々な工夫をして理解し、イメージし、問題を解決しなければなりません。
物理を学ぶことは、色々な角度から思考して最も簡単な道で答えにたどり着く練習になっています。
学者や研究者にならなくても、どんな仕事に就いたとしても、この力は必ず役に立ちますし、「理解できないこと」が本当に少なくなります。
こういう点で私は子供たちに科学を選択することを強くお勧めします。
日本の科学教育は世界でもトップクラスですが、理科好きの人は非常に少ないなと感じています。
一人でも多くの子供たちに科学へ興味を持ってもらい、科学分野で日本人が世界をひっぱっていく未来になって欲しいと願っています。